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特定調停による債務整理の方法や特徴などを解説していきます。
特定調停とは、債務者本人が簡易裁判所に申し立てて債権者との話し合いを仲裁してもらい、借金を減額して残債務を返済する手続きです。
「任意整理を自分で裁判所に出向いて行う感じ」と考えるとイメージしやすいと思います。借入れ開始時からさかのぼって利息制限法の上限金利(15~20%)に引き下げて計算し直すことで、正しい借金の額まで減らすことができます。
借金総額や債権者が比較的少なく、時間に余裕のある方に向いている方法でしょう。
特定調停のメリット・デメリット
特定調停には次のようなメリットやデメリットがあります。
メリット
費用が安く済む
特定調停を行うメリットの一つは、他の債務整理手続きに比べて費用が安く済むことです。自己破産や任意整理では弁護士や司法書士など専門家に依頼するのが一般的で、着手金や報酬の支払いで費用が高くなりますが、特定調停は本人だけで手続きを完了できるので、一社当たり500円(手数料)+予納郵便(郵便切手)以外に費用はかかりません。債権者の数が少なければ、費用はさらに安く抑えられます。
月々の返済が楽になる
特定調停では任意整理と同様、当該債権について、利息制限法に基づく法定金利に引き直して再計算しますが、その際、法定金利の範囲を超える返済額が算出された場合、超過分を差し引いて借金を減額することができます。そしてこのような手続きで借金全体の減額ができた場合、月々の返済が楽になり完済は早まるでしょう。
取り立てや催促をストップできる
負債者に心理的負担を与える要因の一つは業者側からの取り立てや催促ですが、特定調停の手続きを行った場合、裁判所が申し立てを受理した時点で、一切の取り立てや催促がストップします。残念ながら他の債務整理手続きと比べストップまでに時間がかかりますが、それでも取り立てが止まることで負債者の心理的負担が和らぐことは間違いありません。
一部のみの債務整理も可能
特定調停では、調停する債権者を自由に選べることもメリットでしょう。自己破産や個人再生では整理する対象を選べず、全ての債権者と交渉しなければなりませんが、特定調停の場合は、一部のみの債務整理が可能です。この結果、例えば、住宅ローンと自動車ローンの債権者とは特定調停を行わず、住宅と自動車の所有権を維持することも可能になります。
一定の職業につけなくなる資格制限がない
自己破産の手続きをすると、警備員や保険会社の外交員に就けないなど資格制限を受けますが、特定調停の場合は、手続き後も資格制限を受けることはなく、自由に好きな職業に就くことができます。ちなみに任意整理でも一定の職業に就けなくなる資格制限はありませんが、この点は特定調停と任意整理の共通です。
デメリット
過払い金の返還請求はできない
特定調停では、現在の借金を利息制限法に基づく法定金利に引き直して計算し、その結果、借金を減額することができますが、過去に払い過ぎた金額の返還、つまり過払い金の返還請求を行うことはできません。過払い金の返還請求ができる場合は、別途、過払い金返還請求のための手続きを行う必要があります。その際は本人だけで手続きするのは難しいでしょう。
裁判所に何度か出向かなければならない
月に1回のペースで期日が開催される特定調停の場合、最低でも3回程度は裁判所に出頭しなければなりません。しかも債権者1社当たりで数回の出頭ですから、債権者が多くなればなるほど出頭回数も増えていきます。加えて、裁判所への出頭は平日のみであり、仕事を持っている人の場合、日程調整が難しくなるなど負担はさらに増していきます。
手続き完了までに手間と時間がかかる
複数回にわたる裁判所への出頭や仕事の日程調整も含め、特定調停は任意整理に比べて手間と時間がかかるのもデメリットです。一般的には最速で、申し立てから3~4ヶ月程度で成立するといわれていますが、これは早く済んだ場合の目安であり、申し立てを行う裁判所が都市部であったり、話し合いが長引いたりすると、半年ぐらいかかることもあります。
借金の支払い義務は免除されない
特定調停は、裁判所を通じて調停委員と債権者が話し合いを行い、借金を減らす手続きです。従って、借金の減額はできますが、自己破産のように借金全額をチャラにしたり、支払い義務が免除されたりすることはありません。この点で、特定調停と自己破産は手続きの質において根本を異にします。また前述のように、特定調停で過払い金を取り戻すこともできません。
減額後の残債務の支払いをする必要がある
特定調停の手続きをしても、借金の支払い義務は免除されませんから、現在の借金を利息制限法に基づく法定金利に引き直して残債務が出た場合は、その分の支払いをしなければなりません。返済方法は調整次第ですが、申立人としては、毎月の返済に充てるお金を用意しておく必要があります。
個人信用情報機関のブラックリストに載ってしまう
特定調停の手続きを行うと、個人信用情報機関のブラックリストに載ってしまいます。個人信用情報機関とは、個人の金融取引における返済状況や取引履歴に関する情報を集めている民間の情報機関です。各金融業者は勧誘を行う際、ここに照会して利用者の支払能力や返済能力を見極めています。ブラックリストに氏名が載った場合は、数年間、新規のクレジットカード発行や分割払い、住宅ローン、車のローンが組めなくなるので注意しましょう
特定調停手続きの流れと利用条件
特定調停の手続きには手間がかかりますが、和解までの時間は比較的早く、平均2~4ヵ月が一般的です。手続きの流れは以下のようになります。
- 必要書類収集、申立書作成
手続きに必要な書類を集めて、裁判所に提出する申立書などを作成します。 - 簡易裁判所に申立
債権者の営業所の所在地を管轄する簡易裁判所に申立書類を提出します。 - 調停委員との面接
申立人と調停委員との面談で、借金や生活の状況、今後の返済計画などについて質問されます。 - 債権者との話し合い
前回の面談で整理した内容をもとに、調停委員を介して債権者との話し合いを行います。 - 和解成立
協議が成立すれば、合意した内容で調書が作成され、裁判所から交付されます。和解が成立しない場合には他の方法で債務整理することになります。 - 返済開始
合意した内容に従って月々の返済をしていきます。
任意整理と同様に、収入がない方(家族などからの援助がある方は除く)や、生活に必要な収入があっても返済に充てるお金が用意できない方は利用できません。
収入から返済に充てるお金があり、残債務を3~4年ほどで完済できる方なら、特定調停を利用することができます。
名古屋における特定調停の費用相場
名古屋市にオフィスを持つ弁護士事務所や司法書士事務所を調べたところ、特定調停の費用目安は1社につき30,000円あたりが相場といえそうです。
安めのところだと1社につき20,000円前後、高めのところだと1社につき50,000円前後というケースも見受けられます。
特定調停の体験談in名古屋
特定調停についていろいろと専門家に相談したいことがあるものの、具体的にどのような流れになるのかわからず、不安に感じている方も多いはず。そこで、店舗経営失敗の債務整理を特定調停した体験談についてご紹介しています。
こちらの例では、離婚をきっかけにアパレルショップを立ち上げようとした方がショップ経営に失敗してしまい、重なった借金を何とかするために特定調停を選択した体験談について解説しているので、是非とも参考にしてみてください。
今では前向きに将来のことを考えられるようになっているそうなので、借金問題で悩んでいる方は、間に裁判所が入っていろいろと仲介を行ってくれる特定調停についても検討してみてはどうでしょうか。
特定調停に関するQ&A
特定調停はどのような場合におすすめ?
借金の返済に困った際、簡易裁判所に申し立てて貸主と話し合いをし、返済条件を変更することができる制度です。法定利率に従い利息を計算し直しすることで、余計に払っていた利息を元本に充当することもできるため、借金が減額となることもあります。減額した後に残った借金は本人がちゃんと返済する必要があります。そのため、本人に継続的な収入がなくてはいけません。基準として、引き直し後の借金残高を3年間で返済できる場合は、特定調停がおすすめです。
特定調停で減らせる借金の目安は?
利息制限法が定めている利率を超えて利息を取っていた業者からの借り入れに限り、減額が可能です。引き直しをして支払いすぎていた利息を元金に充てることで、減額が望めるでしょう。どれぐらいの期間借りているか、どれぐらいの利率で借りたのかによっても異なるため、目安は人によって異なります。減らせるだけでなく、ゼロになる人もいますし、逆に過払い金が発生している人もいます。まずは相談から始めましょう。
特定調停が成立しない場合はある?
相手側が調停に応じず、裁判所に来ない・話し合いがまとまらないとなれば、特定調停は成立しません。不成立に終わった場合は、利息をつけた状態で今後の支払いを進めていくのですが、利息制限法は適用されます。高金利に戻ることはないので安心してください。不成立となった場合には、違う方法である任意整理や自己破産などを検討したほうがいいでしょう。
特定調停と任意整理の違いは?
特定調停は、手続きを自らが行うもの、という前提があります。任意整理は、司法書士などの専門家が本人の代理となって手続きを行う、という違いです。 その他にも違いはあります。
- 特定調停では過払い金を取り戻せないため、別途過払い金返還請求訴訟をしなくてはならない
- 特定調停が成立してから作成される調停調書に執行力が認められているため、返済計画通りに返済できないと給料の差し押さえをされる恐れがある
- 調停日には裁判所へ足を運ぶ必要がある
- 成立までには2か月以上の期間を要するため、その間に発生した遅延損害金が借金総額に加算されることがある
以上となります。手続きにかかる費用は特定調停のほうが安く済むのですが、これらの点も踏まえてどちらが良いかを考えましょう。
特定調停を行うと給料の差し押さえを解除できる?
特定調停が終了するまでの間は、給料の差し押さえを止めることができます。通常は強制執行を止めるための担保が必要なのですが、特定調停による場合は担保を必要としない場合もあります。
特定調停を弁護士に依頼するなら
特定調停を依頼できる弁護士はたくさんいます。ですが、知りたいのは、どの弁護士が信頼できるのか、腕が立つのかということですよね。
これについては、実際に依頼してみなければわからない…と感じている方もいるかもしれません。
しかし、いざ依頼した弁護士が頼りない方だったりすると困るので、事前に情報を集めておきましょう。特に調べておきたいのが、実績に関することです。
ホームページ上でも実績を公開している弁護士事務所があるので、そういったものも役立ててみてくださいね。
また、その弁護士との相性も大切になってくるので、初めから依頼することを決めてしまうのではなく、無料相談から足を運んでみるのがおすすめ。まずは実際に会ってみると自分に合うかどうかもわかりやすくなります。
特定調停の現状と利用方法
個人再生や自己破産が裁判所の決定によって手続きが行われるのに対して、借金の返済がとどこおり完済が困難になった時、債権者と直接に交渉して解決を測る方法が「任意整理」と「特定調停です。ここでは、両者の違いと利用方法について説明します。
任意整理との違い
任意整理は裁判所を介さずに債務者と債権者直接に交渉を行い、減額などの解決手段が妥結にいたると私的な文書としての和解契約が交わされ、それにもとづいて事後の処理が行われるというものです。この段階で裁判所が介在していないので、どちらが合意事項を履行しなくても、それだけで強制執行を行うことはできません。
一方の特定調停は、債権者または債務者が裁判所に申し立てて裁判官の前で協議を行い、双方が納得する解決手段が見出されると裁判所が調停調書を作成します。内容的には任意整理のものと大差はありません。ただ、裁判所が作成したものなので、どちらかが合意事項に反した場合には強制執行に移行できます。
重要なポイントとして、特定調停にあたっては裁判所が決定を下すことはありません。裁判官はあくまでもオブザーバーとして意見を言うにとどまり、妥結するかどうかは当事者に委ねられます。裁判所が判断を下さないというところが、個人再生や自己破産とは決定的に異なる点です。
特定調停の現状
特定調停は、法律知識と財力がない個人でも裁判所を利用できる制度として2000年に創設されたものです。しかし、現実問題として2003年をピークに利用者数は減少を続けています。
その最大の理由は、成功率が3%と極端に低いことです。特定調停を利用する債務者は多くの場合、代理人に支払う費用が出ないので自分で交渉したいという人なので、法律面ではほとんどが素人となります。このため、双方の意見が平行線になったときの着地点が見出しにくいのです。
もう一つの理由は、裁判所はあくまでもオブザーバーとして参加し、決定を行う立場にはないことが挙げられます。双方の意見を聞き、その中間点としての妥結案を提示した結果、一方または双方が承諾しない場合は調停不調となり特定調停は終了します。裁判所としては、調停不成立という結果を避けなくてはいけない理由がありません。この点からも、成功率が減っているといえます。
特定調停より任意整理が望ましいケースとは?
実際的な運用として、特定調停では法律の素人が企業などの法律を熟知した相手を立ち向かうために、裁判所という法律の番人の意見を聞くという設定になります。しかしながら、裁判所では意見を言うという以上の役割を果たさないために成功率が低く、調停不調となる可能性も考慮しなければいけません。
これに対して任意整理の場合には、法律の素人である個人がいきなり企業に乗り込んでも成功おぼつかないので、一般的には法律の専門家である弁護士の力を借りるのが通例となっています。個人の代理人として、100%味方である法律の専門家が企業と対等の立場で向き合うのがポイントです。単純に双方の主張を2で割るような解決策ではなく、その案件の個別状況に鑑みてぎりぎりの着地点を探していけるメリットがあります。
このために早期の解決を求め、弁護士に依頼する余裕がある人ほど任意整理を選択するケースが増えているようです。
多忙な人ほど任意整理を選ぶ傾向
自力で特定調停に臨むとき、多くの個人は初めて見聞きする法律用語に目を白黒させながら、書物やネットで情報を集めて交渉に向かうことになります。これは個人にとって、時間的にも労力的にも軽いものではありません。
しかし、個人にとって法律問題は人生に一度の大事件であっても、現実問題ほとんどの案件は「よくあるケース」であり、専門家であるほど落とし所を心得ているものです。
任意整理を選択して、法律のプロからサポートを受けるのは費用もかかるし、知り合いの弁護士がいない人にとっては敷居が高いともいえるでしょう。しかし、精神的・時間的な負担を考えてみると仕事などが多忙な人ほど、弁護士に依頼する任意整理を選択して、より確実性の高い解決を求めていく傾向があります。